研究センター

慶友スポーツ医学センター

はじめに

スポーツ医学センターは子供からプロスポーツまで、様々なレベルのスポーツ障害に対する予防と治療の向上を目指して設立されました。スポーツを楽しむ人は年々増えており、年齢や競技レベルに応じて様々な障害・外傷が生じています。一昔前は治療できずにスポーツを諦める方も多くいましたが、病態の究明が進んだ今日では、保存的治療、手術的治療共に格段の進歩を遂げています。当センターではそれらの高度な専門的治療を日常診療に取り入れており、特に肘・肩・膝・関節は本邦有数の治療実績を誇っています。また、大学等の教育機関や地域の研究会での講演、予防啓蒙活動を通して活動の普及も進めています。

センター長 古島弘三(肘関節),船越忠直(肩関節),中川智之(膝関節)

代表疾患

肘関節

内側側副靭帯損傷(尺側側副靭帯損傷)

内側側副靭帯(尺側側副靭帯:UCL)は、肘の内側に張る靭帯で、投球動作など肘関節がしなる際にしなりすぎないように働く靭帯です(図1)。近年、プロ野球選手やメージャーリーガーでも多くの選手がUCL損傷を発症し、手術的治療を行ったことが報道されています。初発で靭帯損傷が軽度であれば手術を行わず、リハビリで復帰することも可能ですが、靭帯損傷が高度であれば手術的治療も考慮します。保存療法成績は,42%~84%と報告されています。
当院の調査では、内側上顆に学童期の遺残裂離骨片を有する症例(図2:リスク2.6倍),MRIでの完全損傷(図3:リスク4.6倍)を有する症例が手術を要するリスクが高まることが分かっています。詳細な評価に基づく診断を行い,3ヶ月以上のリハビリテーションを主体とした保存療法を行っても競技復帰が達成できない場合は手術療法を考慮します。手術を行う条件として,選手が競技復帰・継続を強く希望することが必須となります。

図1 内側側副靭帯(尺側側副靭帯:UCL)
【図1 内側側副靭帯(尺側側副靭帯:UCL) 】
図2 学童期に発症した内側上顆下端裂離骨折の遺残骨片
【図2 学童期に発症した内側上顆下端裂離骨折の遺残骨片】

図3 MRI検査でのUCL
【図3 MRI検査でのUCL】

当院では、本邦有数の手術件数を誇り、当院名誉院長の伊藤が考案した「伊藤法」という術式で手術を行っております(図4)。術後は、約4週間ギプスで固定し、ギプス除去後から可動域訓練を開始、徐々に負荷量を上げていき、8ヶ月で全力投球許可を目標としております。移植した腱と固定に使用する骨釘は、徐々に強度を増していくためスポーツ復帰までに一定の期間を要します(図5)。また、手術後は再発のリスクを低減しつつ、パフォーマンスを向上させるために、筋力トレーニングやストレッチ、投球動作修正などのリハビリテーションを積極的に行います。
学生時代、アマチュア時代に当院で手術を受け、その後プロの世界に進んだ選手もおります。

図4 靭帯再建術(伊藤法)
【図4 靭帯再建術(伊藤法)】

図5 手術後のリハビリテーションの流れ
【図5 手術後のリハビリテーションの流れ】

離断性骨軟骨炎

肘関節外側の骨・軟骨が崩れてしまう病気です(図6)。初期に発見されれば安静を中心とした保存療法で修復が期待できますが、疼痛や可動域制限が出てきてから発見されると手術的治療を要する選手も出てきます。そのまま放置しておくと、スポーツが出来ないだけでなく、将来、変形性肘関節症へ進行することが危惧され、日常生活や仕事にも支障が出てきます。そのため早期発見が重要と考えられています。当院では、保存的治療、手術的治療(図7)とも対応可能です。手術を行った場合、2-3週間シーネで固定し、固定除去後から可動域訓練を開始、徐々に負荷量を上げていき、6-8ヶ月で全力投球許可を目標としております(図8)。

図6 離断性骨軟骨炎 左:レントゲン 右:CT
【図6 離断性骨軟骨炎 左:レントゲン 右:CT】
図7 離断性骨軟骨炎手術法(左:骨軟骨柱移植術、右:骨釘移植術)
【図7 離断性骨軟骨炎手術法(左:骨軟骨柱移植術、右:骨釘移植術)】

図8 手術後のリハビリテーションの流れ
【図8 手術後のリハビリテーションの流れ】

内側上顆下端裂離骨折

内側上顆下端裂離骨折は、肘の靭帯が付着する骨が投球動作により牽引されて剥がれる怪我です(図9)。小学生に多い怪我で痛みが引けば投球再開・競技復帰が可能となります。しかし、近年、この骨折の後遺障害で骨が変形したり、癒合が得られないことで、高校生以上に内側側副靭帯損傷を発症する選手が多いことが分かってきました(図10)。当院では、「骨をきちんと癒合させる」ことにこだわっており、簡易型プラスチック装具(図11)で一定期間固定を行っております。後遺障害を起こさないよう治癒させることを目指しています。

図9 内側上顆下端裂離骨折
【図9 内側上顆下端裂離骨折】
図10 内側上顆裂離骨折の遺残骨片
【図10 内側上顆裂離骨折の遺残骨片】
図11 簡易型プラスチック装具による固定
【図11 簡易型プラスチック装具による固定】

肩関節

肩関節脱臼

脱臼が生じると、骨、靭帯(関節包)が壊れます。そのまま放置すると壊れた部分がさらに大きくなることがあります。初期の段階では関節鏡により壊れた骨、靭帯を修復してくることが可能です(図1、2)。スポーツ選手の場合には早期復帰、復帰後の改善度を考えると重症化する前にしっかりと解剖学的に修復することが望ましいと考えます。特にラグビーやアメリカンフットボール、柔道、レスリング、アイスホッケーのような衝突を繰り返す可能性のあるスポーツにおいては十分な戦略を持った治療が満足する結果を出せると考えます。

図1 関節鏡による肩関節脱臼手術(前方)
【図1 関節鏡による肩関節脱臼手術(前方)】
図2 関節鏡による肩関節脱臼手術(後方)
【図2 関節鏡による肩関節脱臼手術(後方)】

スポーツによる肩関節障害

図1 投球動作による第一肋骨疲労骨折(Funakoshi et al. JBJS 2019より)
【図1 投球動作による第一肋骨疲労骨折(Funakoshi et al. JBJS 2019より)

これまで、スポーツによる肩関節障害は、様々な治療が試みられていますが、十分な成果を挙げているとは言い難く、肩の痛みによりスポーツを断念する選手は未だ数多く存在します。そもそも適切な診断がされていない場合が多いため、当院では、肩の痛みを診断から見直し、関節外における隠された神経症状(胸郭出口症候群や四辺形症候群など、胸郭出口症候群センターの項参照)、疲労骨折(図1)など、さらに関節内における関節唇(SLAP修復 図2)、関節包の損傷を把握することで、適切な治療を目指しています。スポーツ医学センター、リハビリ科とも連携して早期かつ元のレベルへの現場復帰をサポートします。

図2 関節鏡によるSLAP修復(左肩を後方から見る)
【図2 関節鏡によるSLAP修復(左肩を後方から見る)】

胸郭出口症候群

下肢疾患(股関節、膝関節、足関節)

前十字靭帯損傷

図1 MRIでみえる前十字靭帯
【図1 MRIでみえる前十字靭帯】

膝前十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)をつないでいる靭帯です。大腿骨と脛骨がずれるのを防いでおり、膝関節の安定性に重要な役割をしています。前十字靭帯損傷はスポーツでおこる頻度の高いけがの1つです。バスケットボールやサッカーなどのジャンプ着地時と方向転換、柔道やラグビーでの接触時に起こります。多くはジャンプ着地や方向転換で膝がつま先より内側にはいる姿勢で損傷するといわれています。前十字靭帯を損傷すると激しい痛みとともに断裂音が生じ膝に力が入りづらくなります。診断はMRIやレントゲンの画像と医師による徒手検査で確定します(図1)。前十字靭帯は血液の流れが乏しく、一度断裂すると自然に修復することはほとんどありません。そのためスポーツ選手を中心に多くの方に手術療法が適応となります。また前十字靭帯損傷に伴い半月板損傷を合併することが多く、放置すると変形性膝関節症に移行する恐れがあります。

症状

前十字靭帯断裂直後は激しい痛みとともに断裂音を生じますが、歩ける場合も少なくありません。靭帯の断裂によって関節内で出血が起こるため、膝の腫れが生じます。数日間経過すると腫れが落ち着き日常生活はほぼ正常に行うことができますが、走行時や急な方向転換で膝崩れが生じます。そのためスポーツ活動に支障をきたす場合が多くみられます。

治療

前十字靭帯損傷の治療には、手術をしないで治療する保存治療と、切れてしまった靭帯を再び作り直す靭帯再建と呼ばれる手術治療があります。

保存治療では、前十字靭帯損傷の受傷後、約2週間のギブス固定の後、膝の動きを獲得するための関節可動域練習や、体重をかける練習などを開始します。前十字靭帯を損傷すると膝関節の安定性が低下し膝崩れが生じます。そのため、膝関節の安定性を補うための筋力強化や膝に負担をかけない動作を学習するための運動療法を中心にリハビリテーションを行います。またサポーター(装具)やテーピングなどを使用する場合もあります。当院では、保存治療の適応は受傷後2週間以内の患者さんに限定されます。また、断裂形態により適応とならないことがあります。なお、スポーツを行う際の不安定性は残存することが多く、手術治療に移行する場合もあります。

図2 関節鏡でみえる前十字靭帯
【図2 関節鏡でみえる前十字靭帯】

日常生活で膝崩れが起きるなどの不安定感がある場合や、スポーツでの不安定感が強く活動困難となる場合は、手術治療の適応となります。手術治療は、関節鏡にて行われ、自家腱と呼ばれる自身の腱を用いて靭帯再建が施行されます(図2)。前十字靭帯の再建は、半腱様筋のみを用いるST法や半腱様筋に加えて薄筋を用いるSTG法、または膝蓋腱の一部を採取して用いるBTB(bone tendon bone)法が一般的に行われます。ST法(STG法)を用いるのかBTB法を用いるのかは、スポーツの種類や過去の既往歴などで判断されます。また当院では、靭帯再建後に再度靭帯損傷してしまった方で、膝の不安定感が強い場合に、前外側靭帯と呼ばれる靭帯の再建を、人工靭帯を用いて行っております。前外側靭帯は膝の回旋に寄与しているとされており、再建することでより安定性が獲得されると考えられています。また、前十字靭帯の断裂に伴い半月板損傷も合併していることが多くあります。その場合、半月板も同時に処置を行います。

当院では、前十字靱帯再建術後は、約1週で荷重と可動域訓練を許可し、徐々に負荷量を上げていき、6ヶ月以降でスポーツ復帰を目標としております。再建した靭帯は、徐々に強度を増していくためスポーツ復帰までに一定の期間を要します(図3)。また、手術後は再断裂するリスクもあることなどから、復帰するまでの期間は、筋力トレーニングやストレッチ、動作練習などのリハビリテーションが積極的に行われています。

図3 手術後のリハビリテーションの流れ
【図3 手術後のリハビリテーションの流れ】

半月板損傷

半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある軟骨組織です。半月板は膝関節の内側と外側にあります。内側がC字型、外側はO字型をしており、大腿骨と脛骨の適合を高めます。膝関節におけるクッションとして働き、衝撃を分散させます。

また膝関節の曲げ伸ばしに合わせて半月板も関節内で動くことで大腿骨と脛骨の適合性を維持し、膝関節の角度が変わっても、その役割を果たしています。そのため、半月板が損傷するとその機能が破綻し、膝関節において異常が生じます。

半月板の損傷形態としては、大きく3つに分けられます。
①半月板実質部の損傷
②半月板の付着部の損傷
③半月板の形状が半月ではなく円板状になっていることで症状がでる場合

診断には、症状の経過や診察時の医師による徒手検査やMRIなどが用いられます(図1)。また半月板の損傷にはさまざまなタイプが存在します(図2)。

図1 MRIでみた半月板
【図1 MRIでみた半月板】

図2 半月板の損傷形態
【図2 半月板の損傷形態】

症状

膝の曲げ伸ばしで引っかかり感痛みを感じたりします。ひどい場合には、ロッキング症状という急に膝の曲げ伸ばしが出来なくなる状態になります。また、腫れを伴う場合や膝関節に水が溜まることもあります。

治療

一般的に組織が治癒するためには、栄養と細胞等を運搬するための血流が必要です。半月板も同様に、損傷した場合、修復するために血流が必要となります。しかし、半月板は領域によって血流が異なるため、損傷した部位で修復能力が異なります。半月板の血流は外縁に豊富で、内縁に向かうにつれて乏しくなり、また内縁には無血管領域が存在し、血流による組織修復は起こりませんので、修復は望めません。

図3 関節鏡でみえる半月板
【図3 関節鏡でみえる半月板】

治療としては、手術をしない保存治療と損傷した半月板に対して処置を行う手術治療があります。損傷形態により治療方法は変わり、断裂していても不安定性がない場合などは保存療法が選択されることもあります。一方で、不安定性があり、引っかかりやロッキング症状がある場合は手術療法が選択されます。

保存療法では、関節内注射や、断裂部に負荷を掛けないように筋力トレーニングやストレッチ、動作練習などの運動療法が行われています。手術治療は、切除術と縫合術に分けられます。半月板には関節のクッションやスタビライザーとしての役割があるため、できる限り温存させることが重要とされています。そのため当院では色々な方法や器具を駆使し積極的に縫合を行なっています。しかし、治癒の見込めない部位の断裂や半月板が引っかかるような断裂、また縫合できない断裂などの場合では、切除術が行われます(図3)。

当院では、半月板切除術後は翌日から荷重を許可し約2~3ヶ月で、縫合術後では一定の免荷期間の後に荷重を許可し約4~5ヶ月でスポーツ復帰を目標としており、それまでの期間は、筋力トレーニングやストレッチ、動作練習などのリハビリテーションが積極的に行われています(図4)。

図4 半月板縫合術後のリハビリテーションの流れ
【図4 半月板縫合術後のリハビリテーションの流れ】

膝蓋骨脱臼

膝のお皿(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)は膝蓋大腿関節という関節を形成しています。通常は大腿骨の上をお皿が上下・左右に動いていますが、靱帯や筋肉によってそれぞれの方向へ動きすぎないように制御されています。外傷や先天的な要因が原因でお皿が外れてしまうことがあり、膝蓋骨脱臼と呼ばれています。お皿が外側に外れてしまうことがほとんどで、内側に外れてしまう事はまれです。お皿を外側に外れないように内側から押さえてくれている靱帯を内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)と呼び、脱臼によりこの靱帯の機能が破綻します。何度も脱臼を繰り返してしまうことを反復性膝蓋骨脱臼と呼び、この状態になると日常生活でもすぐに脱臼していまいます。受傷後、脱臼したまま病院へ来院することもありますが、通常自然に整復されている事が多いです。脱臼が習慣化して何度も外れてしまうと、軟骨に負担がかかり軟骨を損傷してしまいます。

診断には、症状や診察時の医師による徒手検査、X-P、MRIなどが用いられます(図1)。

症状

図1 MRIでみた膝蓋骨脱臼
【図1 MRIでみた膝蓋骨脱臼】

太ももの内側の痛みと膝の腫れ、膝の曲げ・伸ばしが悪くなってしまうなど動きの制限が出現します。また、動作中にお皿が外れる感覚、外れそうな不安・違和感というような自覚的な症状が出現します。

治療

治療は手術をしないでお皿を外れないようにする保存治療と、手術をしてお皿を外れないようにする手術治療とがあります。

図2 関節鏡でみえる膝蓋骨脱臼
【図2 関節鏡でみえる膝蓋骨脱臼】

保存治療は主に運動療法が行われ、内側広筋と呼ばれる太ももの内側の筋肉をトレーニングすることでお皿が外側に外れないようにします。また、膝・股関節周囲の柔軟性を上げるためのストレッチや、動作が不安定にならないようにバランス練習なども行います。これらに加えて、お皿が再び外れないよう予防的にサポーター(装具)も利用します。一方で、脱臼が習慣化してしまい日常生活でも脱臼してしまうような場合は、手術治療が選択されます。手術治療は、内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)と呼ばれる靭帯を作り直す靱帯再建が行われます(図2)。また、脱臼しやすい骨の形態をしている場合は、靱帯再建に加えて骨を切って形態を変えることも行われます。

当院では、MPFL再建術後は、約1週で荷重と可動域を許可し5~6ヶ月でスポーツ復帰を目標としており、それまでの期間は、筋力トレーニングやストレッチ、動作練習などのリハビリテーションが積極的に行われています(図3)。

図3 手術後のリハビリテーションの流れ
【図3 手術後のリハビリテーションの流れ】

変形性膝関節症に対する膝周囲骨切り術

変形性膝関節症について

図1 膝関節の骨構成および関節の名称
【図1 膝関節の骨構成および関節の名称】

膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨によって構成されており、大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節に分けられます。一般的に、膝関節というと大腿脛骨関節のことであり、また変形性膝関節症の多くはここでの病変を指します。(図1)
病因は一次性と二次性に分類されます。先天異常や外傷後、代謝性疾患などの明確な原因があるものは二次性とされています。一方で、誘引なく症状が出現するなどの明らかな原因が認められないものは一次性に分類されます。一般的には、退行変性を基盤とする一次性が多く、関節軟骨の摩耗や骨棘形成などを伴い、内反変形または外反変形を呈します。診断にはX線が主に用いられますが、軟骨の摩耗や骨髄浮腫などの精査にMRIが用いられることや、骨の状態を確認するためにCTが用いられることがあります。また、X線においては膝のみの撮影に加え、下肢全長といわれる股・膝・足関節を含んだものを撮影し、脚の変形の程度も確認することもあります。

症状

初期症状としては、関節の腫脹やこわばり、歩き始めや立ち上がり時の痛み、関節可動域制限などが認められます。症状や変形が進行すると、痛みが増強し動作や歩行が困難になることで日常生活に支障をきたします。

治療

変形性膝関節症の治療は、保存治療と手術治療に分けられ、変形や症状が重度でなければ保存治療が用いられます。保存治療には、薬物療法としての内服やヒアルロン酸の関節内注射、運動療法としての筋力トレーニングやストレッチ、装具療法としての足底挿板などが用いられます。変形や症状が重度の場合や、保存療法で症状が改善されない場合には、手術療法が考慮されます。手術療法には、人工膝関節全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)、人工膝単顆置換術(UKA:Unicompartmental Knee Arthroplasty)、大腿骨遠位骨切り術(DFO:Distal Femoral Osteotomy)、脛骨高位骨切り術(HTO:Hight Tibial Osteotomy)や脛骨遠位粗面下骨切り術(DTO:Distal Tuberosity Osteotomy)などが用いられます。

・大腿骨遠位骨切り術(DFO:Distal Femoral Osteotomy):(図2)

図2 DFOの骨切り位置
【図2 DFOの骨切り位置】

大腿骨と呼ばれるふとももの骨を膝に近い位置で切り、変形を矯正する手術になります。大腿骨を楔状に切り落として変形を矯正することがほとんどです。

・脛骨高位骨切り術(HTO:Hight Tibial Osteotomy):(図3)

図3 骨切り位置
【図3】
左はOpen Wedge HTOおよびDTOの骨切り位置
右はHybrid Closed Wedge HTOの骨切り位置

脛骨と呼ばれるすねの骨を膝に近い位置で切り、変形を矯正する手術になります。HTOにはOpen Wedge HTOとHybrid Closed Wedge HTOがあります。Open Wedge HTOは、内側から外側に向かって脛骨を切り、人工骨を入れて変形を矯正する方法になります。Hybrid Closed Wedge HTOは、外側から内側に向かって脛骨を楔状に切り落として、変形を矯正する方法になります。Hybrid Closed Wedge HTOの場合、腓骨と呼ばれる脛骨に並走する骨も切り落とします。どちらの方法を用いるのかは、変形の程度によって選択されます。

・脛骨遠位粗面下骨切り術(DTO:Distal Tuberosity Osteotomy):(図4)

図4 骨切り位置
【図4】
左はOpen Wedge HTOの骨切り位置
右はDTOの骨切り位置

基本的にはOpen Wedge HTOと同様の手術になります。Open Wedge HTOの場合、脛骨粗面と呼ばれる膝蓋腱の付着部を遠位側に残すように骨切りされます。近年、この手術によって膝蓋骨の位置が変化することで、膝蓋大腿関節における関節症の発症リスクが高まる可能性が示されています。この解決策として誕生したのがDTOになります。DTOは従来のOpen Wedge HTOにおける脛骨粗面の骨切り方法を変更したものです。脛骨粗面を近位側に残すよう骨切りすることで、膝蓋骨の位置が変化せず、膝蓋大腿関節における関節症の発症予防になると考えられています。

一般的に、変形膝関節症による内反変形に対してはHTOまたはDTOが用いられ、外反変形に対してはDFOが用いられます(図5)。また、変形が高度の場合は、DLO(Double Level Osteotomy)と呼ばれる大腿骨と脛骨の両方の骨切りを行う手術も用いられます。
骨切り術の適応としては、骨粗鬆症がないことに加え、年齢や変形の程度、靭帯損傷の有無などが考慮されます。

図5 各術式の手術前後のX線(下肢全長)
【図5 各術式の手術前後のX線(下肢全長)。AはDFO、BはHybrid Closed Wedge HTO、CはOpen Wedge HTO、DはDTO。
   DTOは脛骨粗面を固定するスクリューを使用するため、Open Wedge HTOにはないスクリューがX線で確認できます。】

当院では、手術後に一定の固定期間と免荷期間を設けた後に、関節可動域練習を開始し、荷重練習を開始します。一般的に切った骨の癒合は3〜6ヶ月とされており、癒合後はランニングなどのスポーツ活動が可能ですが、手術前のスポーツレベルに回復するにはもう少し時間を要します。また、固定や免荷期間による活動量低下に伴う筋力低下なども生じます。手術後は、筋力トレーニングやストレッチなどのリハビリテーションが積極的に行われています。

図6 膝周囲骨切り術後のリハビリテーションの流れ
【図6 膝周囲骨切り術後のリハビリテーションの流れ】

啓蒙活動

図1 膝関節の骨構成および関節の名称
【図7 ぐんま野球フェスタ2019(Full countより引用)】

当院では、県内医療機関、高校野球連盟と連携し、指導者・保護者・選手向けの予防啓蒙活動を実施しております。肩肘の検診活動に加え、指導者向け講習会、育成方法講義、栄養指導講義、少年向けトレーニング実技などをおこなっております。このような活動を通して、重症化して手術しか選択肢が残されていない選手を減らしていきたいと考えています。